企画展 - 2019.1.25

『手繰り寄せる地域鑑賞』 vol.11 タイムライン上に流れていく辺野古

 

ちょうど1年ほど前に、辺野古を訪れた。去年は沖縄での仕事が多く、北部までクルマで行く機会があったので、那覇に帰る途中に寄った。ひと目、現地を見たかったのだ。沖縄本島の外れにあるこの地区は、寂れた飲み屋街がありその脇に住宅が立ち並ぶ、いたって平々凡々な町並みである。ただその際に、フェンスがありゲートがある。基地の前に着いたのは15時頃。この日も午前中は反対運動の座り込みがあったそうだが、ぼくが着いた頃には青年がひとり後片付けをしているのみであった。ブルーシートで囲われた雨避けの中に、展示パネルがいくつか架けられていて、基地反対運動の変遷を伝える年表や、環境破壊の迫る海の写真、V字滑走路の建設プランが紹介されていた。それらを見ながら青年にいくつか質問や会話をしているうちに、ぼくはすぐ近くの事務所に連れて行ってもらうことになった。

 

辺野古の飲み屋街入口にある看板

 

 

彼は風邪を引いて少し辛そうにしていて、事務所に着くなり鼻をかんで風邪薬を飲んだ。ぼくは話の合間に事務所のトイレを借りて、昭和の匂いのするタイルを見つめながら用を足した。パラパラと机に置かれたパンフレットをめくり、同じく利用するメンバー宛てのメモ書きを一つひとつ観察する。おすそ分けとしてそこに置かれたお饅頭を、ひとついただいた。

 

中ではこれまでに発表された資料や書籍が販売されており、そのうちの数冊を購入した。埋め立てられる土砂は(先ほどまでぼくのいた)沖縄の北部や中部から集められ、そこでもやはり環境や騒音の問題が深刻であること、そして運動に対する監視員を(一部の)地区の漁師が担い、悪くない収入を得ていることを知った。つまり、辺野古の基地問題は辺野古のみに留まらず沖縄の問題に、そして日米のことに留まらず環境や経済の問題に多面的に広がっており、それがこの一連を複雑化させている。

 

辺野古にあるキャンプ・シュワブ向かいに仮設されたブルーシートのテント

 

 

「タイムライン」という言葉がある。デジタル・ネイティブの若者に(ギリギリぼくにとっても)馴染みのもので、主にTwitterやFacebookといったSNS上で、次々に情報や発言が呟かれては流れ過ぎ、出ては消えていく、リニア──線的なコミュニケーション・フォーマットだ。たまに忙しくしてTwitterを開かないでいると、タイムラインはもうすごいことになっている。最新情報からは遠く離され、親指で駆け足のスクロールをさせられる羽目になる。情報とは、ビジネスとは、スピードと量がものを言う時代になっていて、20〜30代で活躍しているビジネスマンを見ていると、彼らは共通してその急流を、そう、この瞬間も泳ぎ続けている。

 

消費社会の対象が物からことへ、コミュニケーションへと拡張され、さらにスピードが求められていくなかで、現実に鎮座する問題は複雑すぎる。辺野古から遠く離れた多くの“ぼくら”は、その概要を知り、「賛成/反対」と理解しやすい二極に話を整理し、世間話の果てに「難しいですね」「大事な問題ですよね」と言い合って話を切り上げ、次の会話に転じる。モリカケ問題にパレスチナ問題、北朝鮮に北方領土。なにせぼくらは、遠くの地に点在する他山の問題を、タイムラインよろしく早く多く捌かなければならない。

 

アートが物事の複雑性や問題の提起を試みるものとして社会で機能するときに、ぼくはこの状況に「ハッシュタグ」を提案する。「辺野古」が“ぼくら”にとって遠い問題であるのなら、それを複数の「ハッシュタグ」に因数分解し点在させ、別の物事と結びつけることで、想起する機会を少しでも自分のタイムライン(生活)上に増やし、身近に引き寄せるのだ。「日米国交」「森林破壊」「騒音問題」。さらに近づければ「きれいな海」「高額バイト」「ブルーシート」でもいいかもしれない。単体としてはけっして等号で結ばれないものでも、これらは経験や記憶を通じてシナプスとしてつながり、「辺野古」を想起させるきっかけとなる。

 

外苑前駅の近くにある、行きつけの蕎麦屋が2018年いっぱいで閉店した。「旨塩」という、塩ラーメンのスープにうどん(蕎麦を選ぶこともできるが、断然うどんがオススメだ)を入れたものだ。化学調味料のわざとらしい味が、身体を元気付けてくれる。控えめなトッピングのハム天とたまご天も、実によかった。閉店は、ビルの建て替えによるものらしい。500円のささやかな喜びが突然自分のタイムラインから消えようとしていることを知ったとき、1年前に訪れそして同じく変わろうとしている辺野古をぼくは思い出し、喫緊の課題になっている「辺野古」を、恥ずかしながらようやく自分ごとに引き寄せた。親指の動きを止め人差し指で「ピン留め」し、タイムラインから流れ去るのに待ったをかけたのだった。

 

外苑前の立ち食い蕎麦屋で食べられる、旨塩

 

 

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