企画展 - 2018.09.13
『手繰り寄せる地域鑑賞』 vol.6 接木されるおおいたのジオと、歴史と神話
2017年の秋頃から、5回以上は大分県にわたっている。羽田空港から大分空港に降りようとすると、国東半島を文字通り鳥瞰することができる。半島の中心あたりから放射線状に尾根が延び、分離された裾野には田畑が見え隠れしている。深い緑から鮮やかな黄緑のグラデーションは、半島を囲う豊後水道の青へと続く。
半島の北側に延びる稜線のひとつ、千燈岳はここ数年で観光客を増加している。2014年に開催された「国東半島芸術祭」の出品作として、イギリス出身のアントニー・ゴームリーの《ANOTHER TIME XX》がその山頂、五辻不動尊のすぐ側に設置されたためだ。ふもとから登って行くと、約70分ほどで展示場所に着く。ゴームリーの作品は、彼自身を型とする鉄でできている。“彼”は、手前にうねる稜線を、その奥にせせらぐ稜線を──国東半島が編む自然のダイナミズムを──見通している。その間に間に雲は流れ、刻一刻と広がる景色の表情を変えていく。千燈岳自体の稜線から延びる先(大陸側)には周防灘と姫島が見える。タンカーが島と半島の間を通り過ぎていく。
千燈岳山頂から周囲を見渡す。手前がアントニー・ゴームリー 《ANOTHER TIME XX》
2018年で開山1300年を迎えた六郷満山の神仏文化は、仁聞菩薩によって開かれた。その後、6世紀頃に朝鮮半島からわたってきた仏教文化の影響を受けながら、宇佐から円形状に突き出ている国東半島へと広がった。稜線に遮られている平地にはそれぞれ集落ができ、多様な文化を生む。それは現在に至って、多く点在する神社(つまり社に祀られている神々)や、それらを拠点とする祭や仮面のバリエーションにつながっている。
稜線の先にある、日本列島や朝鮮半島はおろか、国東半島から見てもちっぽけな存在である姫島の歴史は古い。1万年以上前の旧石器時代には、この島で採れる黒曜石が、南は鹿児島、東は現在の大阪あたりまで届けられていることが確認されている(姫島の黒曜石は独特の鈍く白い輝きをしているため、姫島産のものであることが分別できている)。朝鮮半島からわたった下照姫命(諸説あり)がこの島を訪れ、不可思議な現象を起こす伝説を残していった(その逸話は姫島七不思議として現代に伝えられ、名所や湧き出る源泉といった観光資源として、島の文化を豊かにしている)ことが「姫島」という名称の由来になっており、島がまさに「中継地」として、目視できない周防灘のその先を感じさせてくれる。
《ANOTHER TIME XX》の脇にあるお賽銭
《ANOTHER TIME XX》は、お世辞にもアクセスが良いとは言えない山奥の頂に多忙な現代人を訪れさせ、その雄大な地勢と長大な歴史、そしてふくよかな神話を、現代に接続させる「接木」として機能している。同作は鉄が素材として用いられているために、酸化し、風化し、時の経過に確実にさらされていく。朝鮮~姫島~六郷満山と稜線沿いに並んだ線上には《ANOTHER TIME XX》があり、これもまた接木として、大地にゆっくりと接続していく。作品の足元には賽銭が置かれており、アニミズムに基づく神格化が始まっていることを伝えている。
その意味において、2018年に大分県で開催される国民文化祭では、呼称を漢字でなく平仮名による「おおいた大茶会」としており、ここでも(“大きく分ける”のではなく)習合への意志が見受けられる。そこでどんな祭事/催事が行われるかは非常に興味深いのだが、その話は、また別の機会に譲りたいと思う。
《ANOTHER TIME XX》の奥には五辻不動尊がある
【書籍紹介】
おおいたジオカルチャー/美術手帖編集部 (編集)
おおいた観光は、土地に宿る記憶を知ることでもっと深くなる──。
県域の地理的な特徴、古代より語り継がれる神話、そして蓄積される大地(ジオ)の成り立ちといった「土地に宿る記憶」から、大分県の誇る温泉、自然、食といった文化を再照射することで、他県にはない唯一無二なものとしてこれらを再評価する。地域観光に新たな必然性と可能性を探る一冊。第33回国民文化祭・おおいた2018╱第18回全国障害者芸術・文化祭おおいた大会 おおいた大茶会 関連ツーリズムブック
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